脳の働きと認知症

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脳の働きと認知症

有吉佐和子さんの「恍惚の人」が大きな話題となったのは、一昔前のように感じられます。 年をとれば誰でも頭脳の活動は多少鈍くなりますが、ここで言う認知症とは、「自分の周囲の状態が上手く把握できず、正しい判断が下せなくなり、適切な対応ができなくなって、 自立しては日常生活が営めなくなった」病的の状態とします。 65才以上の方では、3~5%の方が認知症状態になり、85才以上では、20%に達すると言われています。

日本における認知症老人の数は、人口の高齢化と共に増加し、2,000年には110万人程度と推察されています。 この人数は、寝たきり(在宅で6ヶ月以上続く)老人の数とほぼ匹敵します。 長寿は多くの方の願いと思われますが、反面その大多数の方々は認知症老人や寝たきり老人にはなりたくないと思われていることでしょう。 ボケ封じの寺とかポックリ寺もありますね。 厚生労働省がすすめています「健康日本21」の主題の1つ健康寿命を延ばすの具体的な目標は、認知症老人や寝たきり老人を確実に減らすことにあります。

認知症について、脳の働きと共に見てみたいと考えます。 また最後にイェフダ博士の研究成果(オメガ脂肪酸のアルツハイマー病に対する臨床試験結果)について紹介させていただきます。

脳の働き

脳は脊髄と共に中枢神経系を形作り、脊髄の上に脳幹、小脳、左右の大脳と繋がっています。 脳幹は体温、呼吸、心血管系の中枢となります。小脳は運動の調節を行います。 大脳は、部分、部分により役割分担が決まっています。例えば辺縁系では本能や情動を、基底核では運動調節をつかさどっています。 記憶や判断などの高次の知的機能は、皮質にあります。 皮質の中の前頭葉は、意欲や創造を分担しています。爬虫類などの活動は辺縁系の機能が強い(本能中心で動く)と言えますが、人間らしい精神活動の本体は大脳皮質にあると言えます。 大脳皮質は灰白色で、その厚さは1.5~4.5mm、表面積は大体2,200cm2だそうです。

脳の重さは、新生児で400g程度ですが、重さだけについて言えば7~8才で成人近くになります。 成人での重さは体重の約2.2%、男性でほぼ1,350g、女性でほぼ1,250gとなります。重さは2.2%に過ぎませんが、エネルギー(ブドウ糖)と酸素は人体全体の20%以上を消費しています。 一方細胞レベルで脳を見ますと、神経細胞(ニューロン)、グリア細胞、血管(細胞)が脳脊髄液に浮いている状態となります。 脳の働きの中心は神経細胞となりますが、グリア細胞は神経細胞のサポート役で清掃や修復、また後に説明します 脳の血液関門(脳血管障壁)の維持にあたります。 グリア細胞の数は、神経細胞の10倍程度多くなっています。

神経細胞は通常1本の軸索と多数の樹状突起を出しています。 軸索の先端は多数に分かれて、樹状突起を通して多数の神経細胞と繋がります。 軸索の先端や樹状突起がどのくらい広く密に繋がっているかが重要となります。 軸索の先端をシナプスと言いますが、シナプスは情報を伝える役割を果たしています。 シナプス間隙は10,000分の2~3mm程度で、この間隙を神経伝達物質が通って他の細胞に情報を伝えます。 樹状突起は情報を受け取る役割を果たします。 神経細胞はシナプスで繋がりながら複雑な神経回路を形作っているとも言えます。 ある働きが脳で行われると、それに関係したシナプスの働きや形が変わり神経情報を伝えやすくします。 逆に働きをしないと伝えにくくなります。 (これをシナプスの生理的可塑性と言います)大脳皮質におけるシナプスの数を増やすことが、複雑な神経回路を作り、高次の知的機能のレベルを高めることに繋がります。 神経細胞は過度に疲労させない範囲では、使えば使うほど良いと言えます。

脳の老化

20才頃を境に加齢と共に脳は萎縮し、重さも減少して行きます。 しかし重さに関しては、90才では10数%の減で、肝臓などの50%減に比べ、脳は最も萎縮の少ない臓器の1つとなっています。 一方20才の大脳神経細胞数はほぼ400億個、このうち大脳皮質における数は140~200億個だそうです。 神経細胞数は他の体細胞と異なり再生せず、1日当たり10万個を超える速度で減って行くと言われています。 大脳皮質の神経細胞数は90才では約50%減少するそうです。 神経細胞は樹状突起や軸索の先端から壊れて行きます。 老人の脳に見られる老人班は死んだ神経細胞の破片で出来た脳のシミを言います。 神経細胞の減った空間は、グリア細胞が埋めます。 しかし先ほど説明しましたように、神経細胞の数が減っても、シナプスの数が増えて密度の高いネットが出来ていれば脳の機能低下は少ないと言えます。 外部から多くの刺激を受け、常に脳の神経細胞を若いときとあまり変わらないように働かせていることが、脳の老化防止には大事と言えます。

「もう若くないのだから‥‥」と考えるのは、タブーにしている方がよいようですね。 何故神経細胞は加齢と共に減って行くのでしょう。 この老化の説明にいろいろな説が出されていますが、中心となるプログラム説と活性酸素障害説について述べます。 プログラム説は、遺伝子の中に細胞の寿命を決めている部分があって、この時が来ると細胞死が起こると言うものです。活性酸素障害説は、発生した活性酸素(フリーラジカル)によって細胞成分(細胞膜、ミトコンドリア、核のDNA等)が酸化され、細胞死に至ると言うものです。 脳は先ほど説明しましたように酸素を最も消費する(言い換えれば、活性酸素の発生も大きいと考えられる)臓器となりますが、また酸化を受けやすい臓器ともなります。 脳、特に皮質には脂質が多く、また細胞膜成分の不飽和脂質が多いことが知られています。 (脳の脂質は全て神経細胞膜等の構造体で、エネルギーには使われていません。また脳にはオメガ3脂肪酸のDHAが多く、知能の発育にも関係するとして多くの乳児用のミルク等に配合されています。)
更には神経伝達物質のカテコールアミン等の酸化され易い物質が多いのです。 これに対して抗酸化機構も働いています。脳での特徴は酵素ではSOD(スーパオキシド・デスミュターゼ)が多く、カタラーゼが少ないこと、ビタミンではCは多いがE(α-トコフェロール)は少ないこと等が知られています。 加齢に従いこれらの抗酸化機構も衰え、細胞成分の酸化障害も増えてくるものと考えられます。

(活性酸素については、健康豆知識「生活習慣病と活性酸素」をご参考ください)

脳の血液関門神経細胞には、神経細胞に必要な物質(栄養)のみを取り込み、不要な物質は取り込まない仕組みが整えられています。 一種の関所とも言えるこの仕組みを脳の血液関門(脳血液障壁)と言います。 神経細胞を汚染から守り、高度の機能を発揮させるにはそれだけの厳密な仕組みが必要なのでしょう。 この選択的機能を果たすのが、脳内の毛細血管とグリア細胞です。 グリア細胞は神経細胞に不要な物質を取り込んで分解もします。 神経細胞に必要な物質は、ブドウ糖(唯一のエネルギー源)、アミノ酸(神経伝達物質の原料)、脂質(細胞膜の原料用)、カルシウム等となります。 例えばアミノ酸について言えばトリプトファンは神経伝達物質セロトニンの、またチロシンはドーパミンやノルアドレナリンの原料となります。 不要な物質ながら例外的に関所を通ってしまうものにアルコールとニコチンがあります。

認知症

認知症の原因としては、近年特にヨーロッパで大問題となっているクロイツフェルト・ヤコブ病いわゆる狂牛病等がありますが、 ここでは老人性認知症について取り上げます。 人は誰でも40才を過ぎるころから生理的な記憶力の低下いわゆる物忘れが増えて行きますが、 認知症は一旦正常に発達した知能が、器質的障害によって持続的に低下した状態を言います。 表1に健常と認知症の差異をまとめました。

表1:健常と認知症の差異

健常と認知症の差異 健常 認知症
症状の内容と年齢
  • 物忘れのみ
  • 体験の一部を忘れる
  • あまり進行しない
  • 生理的変化
  • 日付は大体解る
  • 日常生活に支障がない
  • 自覚している
  • 40才以降が殆ど
  • 物忘れ以外の精神症状あり
  • 体験の全てを忘れる
  • 進行して行く
  • 病的変化
  • 日付が解らないことが多い
  • 日常生活に支障がある
  • 自覚しないことが多い
  • 65才以上に3~5%発生

認知症の診断には、WHOのICD-10という診断基準がありますが、長谷川式簡易知能評価スケールが良く用いられているようです。
以下のような方法です。

  1. お年はいくつですか(2年までの誤差は正解)
  2. 今日は何年、何月、何日ですか、何曜日ですか
  3. 今いるところはどこですか。

5秒おいて家ですか、病院ですか、施設ですか等、9問の質問からできています。
これ以外に家族や職場の情報、CTスキャンやMRIによる脳内部の映像情報等を加えて総合的に診断されます。

老人性の認知症は、脳血管性認知症とアルツハイマー型認知症に大別されます。 1994年には、レーガン元大統領がアルツハイマー病に罹っていると手紙で公表され、全世界に大きな衝撃を与えました。 日本では脳血管性が多くおおよそ44%、アルツハイマー型がおおよそ35%、両者の混合型が10%程度と言われています。 以前は脳血管性がもっと多かったようですが、高血圧の管理が普及するに従い減少したと言われています。

脳血管性認知症は、脳血管の詰まりや破れによって、酸素やブドウ糖がその先の組織には届かず起こるものです。 大小の梗塞を繰り返した、または脳内出血の他に、心不全や低血圧による全身性循環障害が原因となることもあります。
症状は障害の起こった場所によってさまざま変わってきます。 50才代からの男性に発症が多く、頭痛、頭重、手足のしびれ等の自覚症状があり、段階的に悪化して行きますが、性格の変化はあまり無くこの点アルツハイマー型より軽度と言われています。 この治療には日本では多くの脳循環代謝改善薬が用いられていましたが、効果の判定が最新の基準に合致しないとの理由で市場から大部分が姿を消しました。 サアミオン(ニセルゴリン)が、脳梗塞後遺症や脳出血後遺症の改善薬として残っています。

一方アルツハイマー型は、記憶の障害から症状が出始め、知的機能が全般的に低下し、65才前後から発症し高齢ほど増加し、女性に多く、進行はゆっくりですが人格が低下することも多いとされています。
大脳の全体的な著しい萎縮、神経細胞の萎縮・消失、老人斑が異常に多い、β-アミロイドの沈積等が観察されます。 また神経伝達物質の1つアセチルコリンの活性が低下していること、アルミニウムが多いこと等が解っています。 この病気自体の原因は解明されていませんが、現在主として遺伝子解析面から精力的に解明が進められています。 最近日本の市場にも登場したアリセプト(塩酸ドネペジル)は、アセチルコリンの低下を切り口として開発された薬で軽度から中程度のアルツハイマー病の治療に大きな期待がもたれています。 この薬はアセチルコリンエステラーゼ(アセチルコリンをコリンと酢酸に分解する酵素)の活性を阻害しアセチルコリンの低下を防ぎます。

イェフダ博士の研究成果(オメガ脂肪酸の有効性)

ここではイスラエルのイェフダ博士による細胞膜中のオメガ脂肪酸を切り口とした研究成果について紹介しておきたいと思います。 アメリカNIHのギンズバーク博士らは、脳細胞膜中のオメガ脂肪酸が変化すると、細胞膜の最適温度が変化して、体温では正常に保たれないで萎縮してしまい、細胞が機能しなくなることを実験で確かめ、オメガ3とオメガ6不飽和脂肪酸の脳細胞膜中の含量を正常に保つことが重要だと報告しています。

脳細胞膜が正常に機能しなくなると、ブドウ糖の取り込みが出来なくなり、脳細胞は機能しなくなります。 またアルツハイマー病で死亡した患者の病変した脳細胞ではオメガ脂肪酸が減少しており、病変の無かった細胞ではオメガ脂肪酸は正常であったと報告しています。(Molecular and Chemical Neuropathology Vol.19 1993)

イェフダ博士らは、ギンスバーク博士らの報告を参考に、脳細胞を正常に保つためには、オメガ3とオメガ6不飽和脂肪酸の量を正常にする必要があること、オメガ脂肪酸の一方のみを補給すると他方が下がってしまうことから、適当な比率でオメガ3とオメガ6を与えなければならないのではないかと考えました。 いろいろな比率で実験してみて、α-リノレン酸1とリノール酸4の比率が最も効果があることを見つけています。(日本特許2675560)

またオメガ脂肪酸の吸収を、食用油に含まれている飽和脂肪酸が妨害することを突き止めています。 オメガ脂肪酸の効果を得るには、飽和脂肪酸を減らしておくことが重要です。(日本特許 2810725)

さらにイェフダ博士は、アルツハイマー病にかかった脳細胞で、オメガ脂肪酸が減少しているなら、これを補給してやれば症状が改善するのではないかと考え、100名の患者を対象に二重盲験法を用いて、アルツハイマーの各種症状に対する効果を調べました。

オメガ3不飽和脂肪酸はα-リノレン酸、オメガ6はリノール酸が用いられました。 試験は、60名については上記の脂肪酸混合物を、また40名についてはプラシボ(偽薬)をそれぞれ4週間与える方法で行われました。 各種の症状について比較したところ、表2に示されますように、尿失禁を除いては、各症状を通して30~70%の高率で改善効果が見られたと報告しています。(International Journal of Neuroscience Vol.87 1996)

表2:アルツハイマー病患者に対するα-リノレン酸とリノール酸(1:4)混合物の4週間投与における種々の症状に対する改善効果

症状 改善数/適用患者数 改善率(%)
投与 偽薬 脂肪酸混合物 偽薬 脂肪酸混合物
方向位置感覚 3/33 37/50 9.0 74.0
協調性 2/31 28/49 5.1 57.1
ムード 5/27 27/44 18.1 61.4
食欲 2/31 26/48 5.1 54.2
組織・整理能力 4/32 33/48 12.5 68.7
短期記憶応力 1/34 40/59 2.9 74.0
長期記憶能力 0/38 34/58 0.0 58.7
睡眠障害 -2/27 21/29 -7.4 74.4
日中注意力 -2/33 29/47 -5.1 61.7
覚醒状態 -2/10 12/14 -20.0 85.0
自己表現力 1/36 16/52 2.7 30.7
尿失禁 3/14 -2/27 21.4 -7.4

イェフダ博士によるα-リノレン酸とリノール酸(1:4)混合物の改善効果は、表2のようにかなり高いものです。

オメガ脂肪酸の補給はアルツハイマー病の原因を治療するものではありませんが、脳細胞が本来あった機能を果たすようになる助けとなると思われます。
オメガ脂肪酸を空腹時投与して、脳細胞の細胞膜に供給すると言う考えは、認知症の予防という点からは大いに注目できると思います。

またボケの諸症状を初め、食事のバランスが悪いために起こる症状、例えば「イライラ」、「鬱状態」、「やる気がない」といった症状に対しても、オメガ脂肪酸の補給が提案されます。
更には認知症の予防という観点からは、イチョウ葉エキスの血流改善作用と共に同エキス中に多量に含まれるフラボノイドの神経細胞の細胞膜に対する酸化防止作用が思い浮かびます。

(認知症については、健康豆知識「イチョウ葉エキス」をご参照ください。)

オメガ脂肪酸とイチョウ葉エキスの併用も、今後の興味深い課題の一つと考えています。

(オメガ脂肪酸については、健康食品ガイド「オメガ脂肪酸」をご参照ください。)

脳の働きと認知症についてもっと詳しくは

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